最近、InstagramやTwitterなどの公式アカウントをもつ企業の偽アカウントが多数見られます。インターネットの検索ページにおいて、「SNS偽アカウント」と検索すると、企業の偽アカウントに対する注意喚起のページが多数表示されます。偽アカウントは、ある企業の公式アカウントに似せて作られており、公式アカウントであると思いアクセスしたユーザーは、この偽アカウントのページや誘導されたサイトなどで、個人情報やクレジットカード情報の入力が求められ、これに入力してしまうと、これらの情報が盗まれてしまいます。
InstagramやTwitterは、偽アカウントに対して、内容を確認の上、削除などの対応を行っていますが、偽アカウントの数が多いためか、追いついていないのが現状のようです。
企業としては、まず、早期に自社の偽アカウントを発見する必要があります。偽アカウントの発見については、専用のソフトやサービスもあるようです。その上で、偽アカウントを発見した場合、速やかに、InstagramやTwitterに対して報告を行い、削除を求めます。裁判において、削除請求することも可能です。
他方、現状では、偽アカウントが削除されるまでには時間がかかることから、自社のホームページなどで、ユーザーに対して注意喚起を行う必要があります。その際、単に、自社公式アカウントに類似した偽アカウントがあるとアナウンスするだけでは不十分でしょう。偽アカウントの詳細や、自社公式アカウントとの違いを明確に示すべきです。
また、偽アカウントを作成した者を割り出す方法として、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称、「プロバイダ責任制限法」)に基づく発信者情報開示請求があります。ただし、発信者情報開示請求が認められるためには、「自己の権利が侵害されたことが明らかであること」が必要です。自己の権利が侵害されたとは、名誉権、プライバシー、著作権、商標権などが侵害されたことを言います。偽アカウントが企業の公式アカウントで挙げられている写真等を利用していれば著作権侵害が、企業のロゴが商標権登録されている場合で、偽アカウントがそのロゴを利用している場合には商標権侵害が認められるので、発信者情報開示請求が可能です。
なりすまし自体が権利侵害になるかどうかについては、東京地判令和2年6月19日が、氏名は人格権の一内容を構成するもので、その氏名を他人に冒用されない権利があると判示して、なりすましが権利侵害になり得ることを認めました。法人については、インターネットに関する判例ではありませんが、最判平成18年1月20日が、宗教法人も人格的利益を有しており、その名称がその宗教法人を象徴するものとして保護されるべきことは、個人の氏名と同様であり、その名称を他の宗教法人等に冒用されない権利を有すると判示し、法人であっても、名称を他人に冒用されない権利があるとしました。これらの判例からすれば、偽アカウントによるなりすまし自体が、権利侵害に該当すると言えるでしょう。
もっとも、発信者情報開示請求については、通常、Instagramやtwitterなどのコンテンツプロバイダに対する請求と、携帯電話会社のような経由プロバイダに対する請求の2つの請求が必要で、ともに裁判所に仮処分や訴訟を提起しなければならないことが多いです。そのため、偽アカウントの作成者を特定するには時間も費用もかかります。
また、偽アカウントは、作られては短期間で消され、また新たな偽アカウントが作られるということを繰り返していることから、一つの偽アカウントの作成者を割り出したとしても、また新たに別の偽アカウントが作られてしまい、発信者情報開示請求をしても、企業側にとって、費用に見合わないのが現状です。
そのため、企業が、偽アカウントについての発信者情報開示請求を行う例は少ないと思われます。
以上のように、企業としてできることは限られていますが、
①偽アカウントを早期発見する
②速やかに削除要請する
③ユーザーに対する注意喚起を行う
ことは最低限必要です。
また、それ以外にもユーザーに対して、公式アカウントと偽アカウントの区別ができるような対策をとることも有効でしょう。その対策の例としては、
④公式アカウントであることがわかるように、公式マーク(認証バッジ)を取得する
ことが挙げられます。そして、その旨を企業のホームページにおいて公表しておきます。
また、偽アカウントでは、フォロワー数や投稿数が少ない、公式アカウントでは企業の説明や商品の紹介などが多数投稿されているところ、そのような記載が無い又は極端に少ない、公式サイトへのリンクがない、リンク先が公式サイトではないなどの特徴があるとされています。そのため、企業としては、
⑤自社のホームページにおいてユーザーに注意喚起を行う際に、このような偽アカウントの特徴を示し、ユーザーに啓蒙活動を行う
ということもあり得るでしょう。
偽アカウントの存在が、企業の信用問題へとつながることもあり得ますので、出来る限りの対応が求められます。